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新しいSOAの実装方法「クライアント型SOA」のすすめ
2005/8/29-2006/5/31

ストックビジネスを変えるクライアント型SOA

はじめに
   筆者はクライアント型SOAがITをベースにしたストックビジネスを変えると考えています。その理由はサービスプロバイダ側と利用者側の両方にクライアント型SOAならではのメリットがあるからです。今回は前半部分にサービスプロバイダ側のメリット、後半部分は利用者側からのクライアント型SOAの利用メリットについて触れていきます。
サービスプロバイダから見たストックビジネスの弱点

   まずソフトウェアビジネスの歴史を紐解いてみます。

   ソフトウェアビジネスの世界では、以前から「ライセンスビジネスは近いうちに終焉を迎えるだろう。これからはサービスが市場の中心になるだろう」とささやかれていました。その理由はサービス中心のビジネスの収益性の高さにあります。

   ソフトウェアの世界はその昔、ほとんどのシステム案件が受託開発によるものでした。受託開発の場合は発生した開発工数のすべては1社のお客様で消費しており、常に1社のお客様のために開発パワーを割かなくてはならず、ベンダー側から見ると収益性が低いと思われていました。

   そこで、ソフトウェアのコピービジネスとしてのライセンスビジネスが登場しました。ライセンスビジネスであれば、一度開発したソフトウェアを何社ものお客様が使用するため、非常に効率の良いビジネスを展開できるだろうという考え方です。

   しかしこのモデルの場合、ライセンスを購入したお客様からリピートオーダーをもらうためには、追加の提案を行うかシステム再構築の機会を待つしか方法がなく、(失礼ながら)お客様というビジネスチャンスを効率よくビジネスに活かすにはいささか効率が悪いのです。しかもベンダーの経営者から見れば、売上を予測しにくく(売れたり売れなかったりするため)、投資に二の足を踏んでしまうこともしばしばあったと思います。

   そのような時代背景から、今後はサービスによるビジネス展開(ストックビジネス)が主流になると考えられています。サービスビジネスであれば、一度購入したお客様は翌月も、そしてその翌月も、サービスを解約するまで売上が発生することになります。月毎の売上の推移も受託開発のビジネスやライセンスビジネスと比べてはるかに平準化され、また売上予測も精度高く予測できるため、経営者にとって見れば非常に魅力的なビジネスとして見えているはずです。

   しかしながら、このソフトウェアをベースにしたストックビジネス(以下ASP)には1つ弱点があります。

   ASPはそのビジネスがある程度市場に浸透すると頭打ちになります。オプションを積み上げても、1社でサービスを提供している限り、そこには限界があります。例えばASPで人事管理のサービスを展開していた場合、人事管理機能を個別にオプション化して提供した後、次の発展系サービスを自社で提供することが難しいです。

   なぜ難しいかといいますと、現在ほとんどのASPはWebサービスをベースにしているため、新しい別カテゴリの付随サービスや新しいサービスを実現するために、大きな投資(ノウハウの獲得や、人材育成、システム開発も含めた投資)を行うか、他社とOEM契約を実現するしか方法がなく、いずれにせよ経営者にとってはなかなか勇気がいる判断になります。

   大きな投資にはもちろん勇気がいります。OEMの場合は、契約を結ぶとなかなか契約を解約することができず(顧客への影響が大きすぎるため)、OEM供給元のサービスとはある意味心中するくらいの覚悟が必要になるからです(図1)。

ASPにおけるサービス拡張のハードル
図1:ASPにおけるサービス拡張のハードル

   今のASPにおける課題はこの売上の頭打ちを打破するために、また事業を拡大するためのサービス展開を、どのようにして低リスクで、かつ柔軟に行うことであると考えています。
ストックビジネス(ASP)を変えるクライアント型SOA
   筆者はこのクライアント型SOAが、前述のASPの弱点を克服できると考えています。現在、ASPシステム構築の主流であるWebサービスをベースとしたASPの機能拡張は、基本的にサーバ連携になります。

   この連載では何度もでてきていますが、サーバ連携は非常にハードルが高い連携になります。その理由はお互いのサービスの本丸であるサーバを接続するからです。このサーバはいうまでもなくセキュアなシステムですし、連携するにあたりお互いのサーバの改修には結構なコストがかかるため、大きな投資と提携実現までの十分な時間を前提にした提携が実現できないとなかなか難しいのが現状です。

   サイオが以前から提唱しているIdbAベースのクライアント型SOAであれば接続先のサーバに手を加えることなく接続ができるため、他社と連携したASPの機能拡張を営業面でも技術面でも容易に実現することができます(図2)。

   当たり前の話ですが、小さな投資でASPサービスの連携を簡単に実現できるのであれば、提携先の機能を利用して新たなニーズを確立できるため、お互いにメリットがかみ合って、事は比較的容易に運びます。

   提携先は顧客が増え、提携を受け入れる側は機能が拡大することにより、売上が増えるだけではなく顧客の囲い込みが強化されますので、まさにWin-Winな関係が築き上げやすいのです。

   以下では、弊社の事例をベースにクライアント型SOAによるASPサービスの拡大の容易さを解説します。

IdbAによるクライアント型SOA
図2:IdbAによるクライアント型SOA


受注管理・商品管理ASPに在庫管理・商品仕入れASPを乗り入れる例

   サイオは主要ECモールに出店しているネットショップをターゲットとした、「一括!コマース『速販』」というクライアント型SOAベースのASPを展開しています。

   この「速販」は主要ECモールとの業務提携を基軸にビジネスを展開しようとしており、主要ECモールとの提携を実現できた現在では、提携先の取引先であるネットショップへの利用浸透をはかるべく尽力していくつもりです。しかしながら、ある程度の顧客層に「速販」が浸透してしまえば、売上は必ず頭打ちになります。

   現時点では頭打ちになってもいない状態ですが、そのような思考をめぐらせている中、ドンキコム社から問い合わせをいただきました。ドンキコム社は「激安の殿堂」で知られるドンキホーテ社のシステム関連会社であり、そのビジネス特性を活かした「安価な卸価格」と「秀逸な在庫管理とロジスティクス」をネットショップに対して提供できるサービス「ecosec(エコセック)」を展開している会社です。

   まさにドンキコム社からの相談はサイオの「速販」と「ecosec」の連携の案件でした。

   サイオの「速販」は当時、主要ECモールとの提携の目処が立っており、近いうちに大きなシェアを獲得する可能性が高いとECモールの業界で注目を集めていました。今回の提携においてドンキコム社は「ecosec」ユーザの拡大を狙い、サイオは「速販」の機能拡張による売上拡大の狙った、まさに双方の意図が綺麗に合致した提携になります。

   この時、もしサイオの「速販」がクライアント型SOAをベースとしていなく、通常のASPベースであったならば、双方のサーバ連携を行うため大きな投資を双方に強いられることになり、提携のスピードはかなり鈍化していたと思います。
クライアント型SOAをベースにASP連携を実現
  それでは、クライアント型SOAをベースにしたASP連携がどのようなシステム構成で実現できるのか、簡単に触れてみたいと思います。

   「速販」はコンポーネントベースでシステム構築が可能なサイオのIdbAをサービスプラットホームとして採用しているため、容易に追加コンポーネント(サービスの追加)が可能となっています。そのためecosecと接続するためのクライアントコンポーネントを速販上に追加するだけで簡単に連携させることができます(図3)。

ecosecとのシステム連携イメージ
図3:ecosecとのシステム連携イメージ

   このecosecとのシステム連携を行うコンポーネントは、ecosecサーバとhttpで通信を行うWebクライアント的な動きをするコンポーネント(以下、ecosecコンポーネント)です。このecosecコンポーネントは既存のサーバ側に手を加えず、クライアント側だけのシステム構築になるため非常に安価にシステム連携を実現できます。

   つまり低コストでサービス連携の相乗効果(この場合は売上拡大)を実現できるということになります。


利用者から見たクライアント型SOAのメリット

   ここでは、ecosecのようなサービスを例にあげ、BtoB的なストックビジネスにおけるクライアント型SOAの採用メリットを解説します。

   今後ecosecのようなサービスは、ネットショップの業界では大きな潮流になると考えています。その理由はネットショップにおける「価格競争の激化」と「ついで買い」にあります。

   ご存知の通りネットショップのほとんどが小規模店舗であるため、大規模店舗と比べて仕入れ能力があまり高くありません。ですがネットショップは、情報収集力が高いユーザがいるWebサイト上で商売を展開しているため、常に価格競争にさらされており、大規模店舗並みの仕入れ能力が求められているからです。

   また、街中で見られるような「ついで買いビジネス(「クロスセル」とも呼ばれる、ある商品に関連する別の商品を購入させるようなビジネス手法)」はネット上でも十分魅力的なビジネスであるからです。そのような理由でecosecに続く、サービスがネットショップ市場で多く立ち上がると考えています。

   そこでecosecのようなサービスが多く立ち上がっている状態をイメージしてみてください。クライアント型SOAがなければ、ネットショップは自社内システムと仕入れ元のサービスと連携する際に、取引先ごとにゲートウェイサーバを設置しなければならず、コストががかります。自社内システムとの連携を諦めれば、コストは抑えられますが、自社内システムとの連携ができていないため、作業が煩雑になります。

   筆者は、このジレンマがBtoBシステムの普及を阻んだ理由の1つであると考えています。

   サイオの「速販」上で展開されているようなクライアント型SOAを採用したBtoBであれば、ゲートウェイサーバを設置することなく、すべてクライアント側のみでBtoBシステムを構築し、低コストとシステム連携による作業の効率化を実現できるため、前述のようなBtoBの普及障壁を払拭することができます。

今回のまとめ
   ご存知のように、SOAとはService Oriented Archtectureの略であり、サービスの組み換えを念頭に置いたアーキテクチャです。そしてその本意はユーザオリエンテッドであることであると確信しております。

   今回、例として取り上げたモデルは、まさに利用者であるネットショップを中心にした販売先(ECモール)と仕入れ元(ecosecを代表するような卸サービス)のチェーンを低価格に作業効率よく実現しているユーザオリエンテッドなアーキテクチャです。

   用途が見えてこないとささやかれているSOAですが、クライアント型SOAという形でこういった分野から普及がはじまるかもしれません。

   現状のシステム環境を見てみると、利用者はクライアントPC上のブラウザを通して放射線状に複数のサービスを利用しています。しかしこれだけではクライアント型SOAのような連携性がないため、各サービスと自社システムとの連携そして各社のサービス間の連携が取れていない独立した状態になっています。これらを組み替え、連携させ、実現するSOAがクライアント型SOAなのです。

   このクライアント型SOAの適用範囲は今回紹介しましたネットショップのみならず、利用者が複数のサービスを利用しているような市場であれば、サービスプロバイダおよび利用者は、どこでもクライアント型SOA活用メリットを享受できると考えています。

   ぜひ皆様もSOAの新しい形としてのクライアント型SOAをご自身のビジネスに置き換えて、採用メリットをイメージしてみてください。今まで気がつかなかった新しいビジネスが見えてくるかもしれません。そして今後のクライアント型SOA市場の動向に是非ご注目ください。


次回について

   今回で7回目を数える本コラムですが、今までは比較的社外サーバとの接続を中心に解説を行ってきました。この部分がクライアント型SOAのわかりやすい適用範囲ということもありましたが、次回はいよいよ社内使用におけるクライアント型SOAについて触れていきたいと思います。

   かなり主観が入っていますが、一般的なSOAベンダーが訴求している社内使用におけるSOAの用途というものは、ERPに興味を持たれなかったお客様に対してSOAという別の切り口でアピールするための施策に思えてなりません。

   SOAはサービスオリエンテッドでなければなりませんので、柔軟性が不可欠です。システム的に柔軟性がなければ論外ですが、システム的に柔軟でも、その裏腹に大きなコストがかかるようであれば、それはコスト的に柔軟ではないのです。サービスオリエンテッドなシステムをシステム面とコスト面で実現してこそ、実践的なSOAであると信じています。

   私が所属しているサイオという会社では、現在社内システムでのクライアント型SOAのソリューションの確立に取り込んでいます。このコラムを執筆している時点では訴求力が高い汎用的なクライアント型SOAの社内向けソリューションは確立されていませんが、そのソリューションの中でも効果が高いと思われるソリューションモデルを次回紹介したいと思います。是非ご期待ください。

第1回 クライアント型SOAとは
第2回 クライアント型SOAの設計方法と開発方法
第3回 クライアント型SOAの実例
第4回 クライアント型SOAによる官公庁電子申請システム
第5回 クライアント型SOAによるBtoCビジネス向けのシステム
第6回 クライアント型SOAによるスモール&クイックスタート - 最適な投資とは
第7回 ストックビジネスを変えるクライアント型SOA
第8回 クライアント型SOAが実現するBtoBクライアント


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